胡椒(コショウ)
「山椒(サンショウ)は小粒でもぴりりと辛い」、山椒は日本で古くから用いられた香辛料で、薬用にも使われていたそうです。縄文時代の遺跡から出土した土器から山椒の果実が発見された例もあるそうです。そして、香辛料を世界レベルで見渡すと、今回のテーマである胡椒は昔から大変貴重で、貿易の利益の独占をめぐって、15世紀からのいわゆる大航海時代には、世界史を揺り動かす原動力にもなったといわれます。今回は、その胡椒をご紹介します。
1. 原産はインド
インド南西部が胡椒の原産とされています。現在では東南アジアや南アメリカ、西インド諸島などの熱帯地域で栽培されています。熱帯性の多年生つる性植物で、茎の長さは5~9メートルになり、他の樹木などに絡みついて伸びます。果実は液果*で赤く熟します。
ブラックペッパー(黒胡椒)は、赤く色づき始める直前の緑色の未熟果を果皮ごと天日に干して乾燥させたもの、ホワイトペッパー(白胡椒)は、赤く熟した果実を1週間ほど水に浸して発酵させ、柔らかくなった外皮をはがし、核のみを乾燥させたものです。
日本の家庭でお馴染みの灰色の粉末胡椒は、両方をバランスよくミックスしたもので、わが国独特の胡椒だといいます。
- 液果とは、果皮が肉質で、液汁の多い果実の総称。
2. 一握りの胡椒は同じ重さの黄金に匹敵!?
現存の資料では、約2500年前(BC500年ごろ)インドで生産された胡椒が古代ギリシアで医薬品や食用として使用されていたことが分かっています。
約1500年前の古代ローマ時代でも胡椒は、貴重な品目として高値で取り引きがなされ、その保有量が権力と財力の証とされていました。
ドイツでは、役人の給料を胡椒で払ったとされていますし、罰金や税の代わりとしても扱われました。
イギリスでは、地主たちが小作料を胡椒で支払うようにしたとされ、その名残りは今でも「名目だけのわずかな地代」を表す“ペッパーコーンレント”という言葉に残っています。
中世ヨーロッパ時代での胡椒の価値は「一握りの胡椒は、同じ重さの黄金もしくは、牛一頭と引き換えにされた」とされています。
1453年に東ローマ帝国が滅亡すると各国は、新たな交易ルートの確保に躍起となりました。喜望峰回りのインド航路を開発したバスコ・ダ・ガマの持ち帰った数々の香辛料は仕入値の60倍以上の値段で売ることができたそうです。また、マゼランがモルッカ諸島で積み込んだ香辛料はマゼラン艦隊の派遣費用をはるかに上回る利益があったそうです。その後もヨーロッパ諸国によるインドをはじめとする東洋への侵略の歴史と入り乱れて領有地争奪戦争(スパイス戦争とよばれている)が第二次世界大戦直後まで繰り返されました。
3. なぜ、それほど重要か
もともとハーブ系のものしかなかったヨーロッパにおいて、香辛料は、その香りの魅力はもちろんのこと、冷蔵庫がなかった時代に、食品、特に肉の保存に役立つ「防腐」、「抗菌」などの効用という実用的な面が大きな魅力でした。中でも胡椒は、香りづけ・臭み消し、辛味づけという働きをもち、防腐作用もあり、大変重宝されました。
4. 胡椒と健康
胡椒の成分の中で特筆すべきなのは、独特の辛味と風味をもたらすピペリンという成分です。ピペリンは、エネルギーの代謝を上げる作用や、血管を拡張して血流を上げ、冷えを改善する作用をもち、抗菌作用、防腐作用、殺虫作用などもあり、特に黒胡椒に多く含まれています。
胃腸が弱っている場合には、胡椒は刺激物なので摂取してはいけないと考えるケースが少なくありませんが、適量を用いることで血流をよくし、身体の内部を温めてくれることで、反対に消化不良や食欲不振といった、胃腸の不調を解消してくれる可能性もあります。ただし、過剰に摂取すると反対に胃腸にダメージを与えかねないので、注意が必要です。
また、胡椒にはカリウムが割合多く含まれています。カリウムには体内の塩分排出を促進する効果があるので、血圧が高い人などは積極的に摂取したい成分です。塩やソースを減らした減塩メニューは薄味なので、塩分を減らした代わりに胡椒を増やせば物足りなさを軽減することができます。
このように胡椒を上手に料理に用いれば、辛味や香りにより塩分の使用量を控えることと、カリウムによる塩分排出の二つの減塩対策効果が期待できます。
昔は調味料界の黄金として扱われた胡椒を上手に活用して、健康な生活を心がけましょう。
協力:日本胡椒協会
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